看護セミナー Seminar

2021年5月29日開催 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 理学療法学分野 教授 神津 玲先生 いま、リハビリテーションで押さえておきたい最新のエビデンス

最新のエビデンスを元に、リハビリテーションについて非常に詳しくお話をいただきました。
リハビリ職のみならず、全ての医療職、介護職も必見の内容をご講演いただきました。

受講者の皆様からのご質問を、神津先生にお答えいただきました!
Q1 腰痛圧迫骨折のお客様がおられ、もともと慢性呼吸器疾患の既往がありました。週1回のリハビリには意欲的に取り組み、屋外歩行時に口すぼめ呼吸をしたり体操にも応じるのですが、日常生活では臥床傾向です。フレイルも心配なため離床した生活に繋げたいのですが、息苦しさを理由にすぐに横になってしまいます。ご本人のキャラクターもあるかと思うのですが、離床した生活に繋げられるよう、アプローチのヒントを頂けるとありがたいです。(作業療法士) A ご質問ありがとうございます。
段階を踏んで徐々に離床を進めることができればと思います。まずは、椅子に座って過ごす機会と時間をふやすようにしてはいかがでしょうか。その際に、ただ座るのではなく、座って「何かを行う」ことができればと考えます。最初はテレビを見るだけでもよいですし、何かの活動につながっていく。すなわち目的を持った活動、離床ができるようになれば習慣化されやすく、日中の離床を進める契機になると思われます。
Q2 貴重なご講演ありがとうございます。
最近では、救命救急センターでも重症患者さんへの早期離床について、看護師の意識もかなり高くなってきていると思います。他職種とのカンファレンスでも必ずと言っていいほど早期離床についての話題が出てきます。このように、早期離床についてはかなり意識が高まってきておりますが、近年の報告で上肢の筋力低下も長期予後的に問題になっていることがわかりました(特に肩関節領域)。
集中治療領域で、重症患者さんに対して看護師が介入できる有効な上肢リハビリがあれば教えていただきたいです。 A ご質問ありがとうございます。何かと患者さんの下肢機能に注目が集まってしまうのですが、上肢機能もとても大切であると考えます。ADLの視点では、上肢の機能は(上肢を)挙上する(更衣など)、肘を曲げる(食事など)、手指を使用する(巧緻動作)が重要となります。上肢の筋力を向上することもとても大切ですが、(患者さん自身が)上肢を使用する機会を設けることも重要かつ効果的です。顔をふく、手を洗う、歯磨き、などベッド上のケアを患者さん自身に行ってもらうことがもっとも効果的な上肢のトレーニングになりますので、看護ケアに取り入れるように工夫いただければと思います。
患者さん自身でできない場合には、上肢の挙上、肘の曲げ伸ばし、離握手などの運動を他動的・自動介助的に行うというトレーニングになります。こうした内容は日中に2-3回行っていただくとよいです。
Q3 運動強度に関して質問です。
高強度はpeakvo2の60-80%、低強度はpeakvo2の40-50%もあったと思いますが、具体的な評価はどのようにされておりますか?
cpxや運動負荷試験などは実施できない方が多く、6分間歩行試験などでの評価はあると思いますが、peakvo2を考えた運動強度という面で、何か方法や具体的な実践方法などがあれば知りたいです。私の中では、カルボーネン法やボルグスケール、トークテストなどを用いて運動強度を決めることがあります。もし先生の方で何かやられている、評価や運動負荷試験などがあればうかがいたいです。
最後になりましたが、貴重な機会をありがとうございました。 A ご質問ありがとうございます。
6分間歩行テストができれば、そこから運動強度の設定が可能です。下記の手順で設定します。
1) 同テストで得られた歩行距離から時速を算出する(例:歩行距離が400mであれば、時速4.0km/h)
2) 6分間歩行テストは「患者さんに6分間でできるだけ遠くまで歩いてもらう」という指示をしますので、上記の歩行速度を最大歩行速度とみなすことができます。この歩行速度を100%として、80%の歩行速度を運動強度に適用します(4.0×0.8=3.2km/h)。
3) 時速3.2km/hの歩行速度で例えば20分間の歩行を練習すると1.1kmとなります。患者さんには「20分で1.1km歩く」練習を適用します。
私たちは上記の方法を多用しています。また、自転車エルゴメータの場合は、1分間に10Wずつ強度を増やす運動負荷テストを行い、最大負荷量を決定し、その50-80%程度の強度を使用するということも行います。
6分間歩行テストができない場合などでは、おっしゃるとおりの方法で運動強度を決めて実施視することも当然可能です。
Q4 現在、訪問でリハビリテーションを行なっています。後期高齢者の利用者様(患者)で複数の疾患を持ち心不全、フレイルにより継続的にリハビリを行う上で悩まされることが多いと感じています。
住宅や施設に入居している方が、症状が重度化する前に住宅や施設でも慢性呼吸器疾患などがスクリーニングなどで評価できれば予防的な働きができればと思い質問させていただきました。 A ありがとうございます。おっしゃるとおりですね。
慢性閉塞肺疾患(COPD)は、長期間の喫煙歴がある、動作時の息切れや長く続く咳や痰があるといった症状が特徴的です。しかし、「年のせいだから」といって見過ごされている場合が少なくありませんので注意が必要です。COPDの早期発見方法のための簡便な評価としては、COPD-PS(COPD Population Screener)やCOPDスクリーニング質問票(COPD-Q)という簡易質問票がありますので、それらを利用することができると思います。
(参考)
http://www.gold-jac.jp/support_contents/copd-ps.html
寒川卓哉ほか:日本人を対象としたCOPDスクリーニング質問票.『呼吸』eレポート 2017; 1: 66.
Q5 本日は貴重なご講演、本当にありがとうございました。
先生は摂食嚥下機能における予防的な理学療法についても研究されているとのことですが、高齢者施設で実践できるようなことがありましたら教えていただきたく思います。 A ありがとうございます。私たちは高齢者の摂食嚥下障害に関連する誤嚥性肺炎の予防とその対応についての理学療法を実践するとともに、効果的な方法を確立したいと研究を進めています。
その中で、咳の機能に着目しています。高齢者は咳の力や効率が低下するため、誤嚥した際に(誤嚥したものを)うまく喀出できない、痰が排出できないといった問題が生じます。徒手的に胸郭を圧迫して咳を介助したり、強制的に呼出する方法で咳を代用することなども実施しています。
自己練習としてはペットボトルに水を入れて吹き込む(ブローイング)、深呼吸と強制呼出(アクティブサイクル呼吸法)、頭部挙上練習・嚥下おでこ体操なども実施しています。
最近では呼吸筋を強化する「呼吸筋トレーニング」を行うことで、咳嗽機能が向上することも確認しています。こうした方法も今後、現場で取り入れていこうと考えています。